「休めっていうけど、休んだら差別なくならないじゃん」へのひとつの回答
community care
(ケアさせてくれない世の中のシステムから一歩ぬけだす。子ども/おとな食堂みたいなのに関わったり、子育てしてるとセルフケアしにくいからコミュニティでの子育てにアクセスしてみるとか)
オキュラスクエスト買って良かった話
【トランス差別をとめるには】Huluにリクエストを送ってみた話
動画配信サービスのHuluに、こんなメールを送ってみた
タイトル:Changing the Gameを日本でも上映してほしいです
内容:プライド月間にあわせてChanging the Gameが米国Huruで配信されるとの記事を拝見しました。
https://www.glaad.org/blog/glaad-wrap-hulu-release-changing-game-trailers-shrill-and-mythic-quest-new-music-rina-sawayamaトランスジェンダーのスポーツ参加については、日本でも国会議員が差別的に言及するなど関心が高まっています。ぜひ日本に暮らしている私たちにもドキュメンタリーを通じて、正しい情報にもとづいてディスカッションできるよう、放映していただけるとうれしいです!
フロントロウのこちらの記事によると、プライド月間である6月に 米Huluがトランスジェンダーの学生とスポーツに関するドキュメンタリーを配信するらしい。日本ではみられない、なんてなったら悲しいなと思って、意見だけでも伝えてみようと考えたわけ。
フロントロウはトランスジェンダーについて詳しい記事をいくつか出している。この記事はトランスジェンダー学生のスポーツ参加をめぐるアメリカの状況を扱ったもの。
トランスジェンダーの生徒が女子チームに参加することを禁じる法案が下院で可決されたサウスダコタ州では、議論中に、そもそも過去10年において同州でトランスジェンダーの生徒が女子チームが参加した事例はたったの1件で、その生徒が女子生徒から“勝利を奪った”という事実はないことが認められたものの、それでも法案は可決された。
データの乏しさを指摘された議員たちは“子供たちのために将来の問題の種を事前に摘むため”だと主張するけれど、その心配が事実ならば、深く議論をして慎重にルールを作るべき。
このくだりなど、うなづきながら読んだ。
ちょうど先日、自民党の山谷えり子議員がLGBT理解増進法にふれて、性自認にもとづいたトイレ利用やスポーツ参加にふれ「ばかげたことだ」と発言したことが話題になった。他の議員が「種の保存に反する」みたいな発言をしたことで、自民党に対する非難轟々となっているが、なにが差別扇動なのか直感でわかる人は多くても、ことトランス差別については話題がマニアックすぎてついていけない人は多い。
(それゆえにデマ扇動される人が多い、というのがLGBに対する差別とトランス差別の決定的な違いなのではないかとも個人的には感じる)。
トランス差別ってなんなのか
オラオラ、トランス差別ってなんだよ説明してみろよ
治安レベルが極悪であるTwitterでヘイターたちが日頃つぶやいているフレーズである。ただヘイターじゃなくても、なにがトランス差別なのかわからない初心者も多そうだ。自治体の最新調査によれば、トランスジェンダー の人口は0.5%にすぎない。トランスの知り合いと性別について語り合った経験のある人なんてごくわずかにすぎない。
少なくとも日本において、差別ということばの使われ方はあいまいだ。
1. 属性によって扱いを変えること
2. 合理的な理由がないのに属性で扱いを変えること
「属性Aの人には家を貸すのに、属性Bの人には家を貸さない」といったように属性に基づいて異なる扱いをすることが差別であることは、多くの人が認めるところだ。それに対して「大人は運転免許を取れ、子どもが運転免許を取れないこと」を差別だと考える人は少ない。中にはそう考える人もいるかもしれない。「レディースデイが差別だ」と考える人と、そうは考えない人が世の中にはいる(私はレディーズデイと男女間の賃金格差を同時になくすべきだと考える立場だが)。
私は、昨今のトランス差別について説明するには3つめの定義が良いのではないかと思っている。
3.マジョリティの人間が実態を無視した語りを広めて、マイノリティの経験や語りを無効化すること
大多数の人間は、トランスジェンダーが用を足すたびに警備員を呼ばれることがないようどのように工夫しているかを知らない。すでにうまくやれている多くの場面があることも知らない。知らないのにトランスジェンダーの尊厳を認めて、互いが共存することは困難であるなどと決めつけられる行為が散見される。これが現状SNSを中心に展開されるトランス差別の形態だ。
スポーツの話で言えば、アスリートなのか趣味なのか、ホルモン療法をしてるのかしてないのか、子どもなのか大人なのか、どの競技なのかによって議論は変わるはずだ。それを無視して「ダーッとメダルを取る」のがトランスジェンダー の(あるいは「活動家の」)求めることだと決めつけること自体がどうかしている。
性同一性障害の手術要件撤廃について、それを認めたら女湯にペニスのある人が入ってくるとか、通報することもできないとか語る人がいる。本気で怯えている人と、政争の具にしようとして、わかっていてワザと拡散させている人もいる。
私は手術要件の撤廃にはもちろん賛成だ。トランスの仲間たちが「彼女と結婚するために見たことも触ったこともない卵巣を摘出しようか迷う」とか「就職差別されないために大学のうちにお金ためて手術する」とか話しているのを聞くのに、もううんざりしている。でも、手術要件が外れたからといってペニスがある人が女湯に入れるとは思わないし、入れるべきだと主張していない。浴場組合には現在も「ペニスがあれば男湯」という決まりがある。レディースデイが許容される程度には、許容される決まりだと思うし、異なる扱いであっても合理的な理由はあると考えられる。
手術要件の撤廃について、移行先の性別で実生活を送ること(Real Life Experience=RLE)を一定期間行っている人については手術なしでも性別変更可能にするとか、細かく検討することもできる。当事者の切実な現状に対して、知恵を練って建設的な議論をすることで、よりよい社会を作ることはできる。
トランス差別をなくすためにできること
この数年、ハッシュタグでトランス差別に反対の声をあげてくれる人がいる。トランスジェンダー の外見を中傷したり、当事者の投稿を曲解して大量の嫌がらせをあびせたりする様子に胸を痛めてくれる人が多いことはうれしい。
もし追加でリクエストしてもいいなら、お願いしたいのは正しいリソースを広めてほしいということだ。トランス差別をしている人も反対している人も、人口比0.5%当事者についてよくわからないのが現状に思う。実態に基づいた正確な議論と、一緒に知恵を出して解決策を考える人が増えてようやくトランスジェンダー の置かれた環境は改善される。
6月にはオンラインで、アメリカのトランスジェンダーへのバックラッシュを描いたドキュメンタリーの上映会が開催される。自宅から見られるし、貴重な機会なので関心がある人にはぜひみてほしい。まわりにも上映会があることを知らせて欲しい。
6月4日からはNHKのEテレで、連続ドラマ「ファースト・デイ」がはじまる。トランスジェンダーの中学生を描いた良作品で、吹き替えは井手上漠さんだ。こういうドラマを広めてもらうのもいい。
最後に、私が仲間たちとやっているクラウドファンディングもよかったら応援してほしい。なんだ、寄付の宣伝かよ!なんて思われたかもしれないが、実際問題トランスジェンダー のことを知らない人があまりに多すぎるのだ。この状況を変えるために、ぜひ力を貸して欲しい。
取り残された者のためのトランスジェンダー 史
20歳のときにトランスジェンダー当事者として、自分が共感できる文章の書き手はふたりしかいなかった。そのひとりがヨシノユギさんで、こうやって2020年になって新しくヨシノさんの文章が読めてうれしい。
吉野靫『誰かの理想を生きられはしない とり残された者のためのトランスジェンダー史』
(ちなみにもう一人は、本書でも触れられている「るぱん4」さん)。
ヨシノさんは2006年5月に大阪医科大付属病院で乳房切除手術を受け、病院側のミスにより患部が壊死して裁判をしていた人だ。トランスコミュニティは昔から閉鎖的な村社会みたいなところがあり無責任にウワサを流す連中も多かった。せっかく性同一性障害医療の扉があいたのにそれを閉ざすのか、といった形で医療ミスを受けた本人を中傷したり、根も葉もないウワサを流したりする人がいた。
自分にとってのヨシノさんはクロマニヨンズが好きだったり、あきらかシャイっぽいのにナルシストだったりするカッコよくておかしい人なのだが、本書はそのような牧歌的なこととは対極にある「砂漠」の本だ。
20歳のときにヨシノさんが裁判をすると聞いて寄付をした。そんな自分はヨシノさんの裁判のときには応援をする側にいたけれど、ヨシノさんが活動の先輩じゃなかったらなにかの間違いで石を投げる側に言っちゃっていたかもしれないと思うことはある。
本書では、性同一性障害特例法ができたときにだれが取り残されたのか、ということも描かれている。読んでいると、明らかに自分は「取り残す側」ポジションにいるんだなぁと思う。昔から自分は東京にいて自民党の議員にロビイングとかするわけ。それは安易に「そういうやつも必要」とか言って片付けるような話じゃなくて、「そういうやつ」にはそれなりの振る舞い方というのがたぶんあるとも思う。
昔からヨシノさんとそういう話をしてたなぁと思い出した。
というのはウソで、わざわざ思い出すでもなくヨシノさんと話してきたことは今でもよく考えている。「すべてを失うつもりだと思ってもだれかが隣にいたりする、それが運動というものです」と、裁判のときにだれかが書いていたのを今でもよく思い出すし、たぶん生涯忘れないんだろうなと思う。運動はいいものだと思ってる。
12月13日にZOOMで書評会があるらしいので、宣伝リンクを貼っておきます。
トランスを知るためのQ&A(初心者編)
昔作ってホームページに載せていたのを、新しいホームページを作る際に削除していました(オイオイ)。というわけで、少し手をいれて再掲載します
トランスを知るためのQ&A(初心者編)
Q.8 FTMは男らしく、MTFは女らしく、Xジェンダーは中性らしいんでしょ?
Q.9 男とか女とかじゃなくて、その人らしく生きればいいよね?
子どもの性別違和についてはこのHPも見てください。
頑張って作りました。
トランスの子どもたちが安心して過ごせる場所、いろんな質問をされなくてもそのままでいられる安全な場所は全国的に不足しています。
この記事が素敵だと思った人は、私が代表で活動しているLGBTの子ども・若者の居場所「にじーず」のサポーターになってくれるとうれしいな。毎月500円から中高生やユースを応援できます。応援はこちらから。
トランスを知るためのQ&A(初心者編) ⑨⑩
Q.9 男とか女とかじゃなくて、その人らしく生きればいいよね?
だれもが自分らしく生きられる社会は理想的です。
しかし、実際のところ、いま私たちが生きているこの社会は、24時間365日、執拗に、あらゆる場面で性別を問われ、それにより異なる期待をし、異なる扱いをする社会です。
「男も女も関係ない」「性別なんて気にしないで!」と言い切ってしまうのには、性別はあまりに「ある人を構成する要素」として大きな部分を占めています。「その人らしく」が実現できるのは、その人の性同一性がきちんと尊重され、まっとうに扱われる場合だけです。
「その人らしく」あることは大切ですが、男や女であることも大切です!
Q. 10 家族や友だちにできることは?
その人が新しい性別で生きようとしていることを、ぜひ応援してください。
次のことも役立つでしょう。
- 本人の希望する名前や代名詞(彼・彼女/名前がいいなど)、くん・さんづけで呼ぼう。分からなかったら訊こう。これまで間違ってたら直そう。
- 本人の許可なく他の人に言わないで。その人のアイデンティティがどのような性別なのか、だけでなく、性別変更した事実や以前の性別、名前を知られたくないと思う人がいます。
- 「どこまで手術してるの?」「どんな体なの?」「どんなセックス?」「本物の女/男みたい」「本当の女/男らしく見せるには」「昔の写真みせて」みたいなウザいことを言わない。クソバイスしない。
- 性的指向を決めつけるのはやめよう。トランスであっても、好きになる相手の性別はいろいろです。またトランス女性を好きになる男性=ゲイではないですし、トランス男性を好きになる女性=レズビアンではありません。トランスのパートナーに対してあれこれ決めつけるのもやめましょう。
- 本人が使っている言葉をつかおう。トランス、オカマ・オナベ、元男子・元女子、オネェ系、ニューハーフ、性同一性障害etc. いろんな言葉があります。他の人は平気でも、その人にとってはつらい言葉がたくさんあります。その人は自分のことをなんて表現していますか?
- 困っていることがないか訊こう。トイレ、服装、旅行のお風呂、人間関係。いろいろあるかも。一緒にトイレに行ったり、風呂に困ってないか声をかけたりすると相手はほっとするでしょう。
- レッテル貼りをやめよう。トランスであることは「深刻な障害」とか「個性☆」とか、そんな単純な話ではありません。
- 性別を問わず使えるもの・楽しめるものを増やそう。男性だけ、女性だけの場を使えるトランスの人もいれば、そうでないトランスの人もいます。性別を気にせず使えるものを増やせないか、書類にいらない性別欄がないか、忘年会のビンゴの景品を性別でわける意味はあるのか考えましょう。性別を問わないトイレを作るのもよいでしょう。
- トランスの人と一緒に何かやろう。イベントのスタッフを一緒にやるとか
- 単に友達として「その人」との出会いを楽しんで一緒にすごそう。
トランスを知るためのQ&A(初心者編) ⑦⑧
Q.7 性別って2つだけじゃないの?
「性同一性」(自分をどのような性別だと思うのか)のあり方は、人によって大きく異なります。
あるトランスの人は、自分自身を男性や女性であり「中間」ではないと捉えます。別のトランスの人は、自分自身のことを「男性と女性の中間」や「どちらでもない」「両方」「やや女性/やや男性より」といった風に捉えています。性別のあり方は、虹のグラデーションのように個々人によって色合いが異なります。
いまの時代において欧米中心的な文化・制度が、性別を2つに決めていますが、絶対的なものではありません。そもそも性別(ジェンダー)は、社会が生み出したものです。
インドネシアのブジス族では性別は5個、インドではヒジュラと呼ばれる「第三の性別」があります。サモア島、メキシコでも同様です。オーストラリアでは2014年に、パスポートの性別に男でも女でもない性別記載が可能となりました。
性別をめぐる人々の考え方によって「数え方」や見方は変わってくるでしょう。
Q.8 FTMは男らしく、MTFは女らしく、Xジェンダーは中性らしいんでしょ?
世の中には凛々しい女性も、かわいらしい男性もたくさんいます。
サッカーや釣りや電車が好きな女性も、お花やダンスやテディベアが好きな男性もいます。
同様に、男らしくないFTMも、女らしくないMTFもいます。
中性的に振る舞っているからといって、その人がXジェンダーとは限りません。
ある人がどれくらい男らしいか、女らしいかを表す概念を「性表現」と言います。
「性表現」は、その人のもともとの性格や性質、世渡りする上でのキャラ設定などと関連しているかもしれませんが、その人が自分の性別についてどう認識しているのか(「性自認」)とは、また別モノです。
男らしくなくても、男性は男性です。女らしくなくても、女性は女性です。
(せっかく「らしさ」から離れられるチャンスなのに、「Xジェンダーというものは…」「中性らしい」なんて言わないで…!)