バラバラに、ともに。遠藤まめたのブログ

LGBTの子ども・若者支援に取り組む30代トランスの雑記帳です

トランスジェンダーの経験の複雑さを、どう伝えるか

長年、寄稿してきたWebメディアWezzyが閉鎖されることになったので、以前の記事をこちらに再掲します。2021年5月の記事です。

トランスジェンダーの経験の複雑さを、どう伝えるか

2018年にお茶の水女子大学がトランス 女性の受け入れを認めた直後から、SNS上を中心にトランス ジェンダー に対する誹謗中傷が続いている。「性犯罪者と区別がつかないから トランスジェンダー を女性空間から追い出すべきだ」といった主張があちこちに広まり、さらにはトランスジェンダー当事者の外見を嘲笑したり、大量のいやがらせリプライを浴びせたりといった光景がこの何年も続いている。

このような現象は日本 に限ったことではなく、英語圏や韓国 でも同様のことが起きている。2020年の冬、韓国でひとりの若者が淑明女子大学の合格通知を受け取った。彼女の夢は弁護士になり、さまざまな 社会的弱者を救うことだった。しかし大学で学びたいという彼女の願いはかなわなかった。トランスジェンダーである彼女に対して「女性のための空間に入ってくるな」「トランスジェンダー女性が自分のことを女性だと主張する根拠は飛躍」など苛烈なバッシングが行われたことが原因だ。  

21もの団体が「女性の権利を脅かす性別変更に反対する」と声明を出し、彼女は入学を断念した。彼女を歓迎する女性たちもインターネットに書き込んだが、圧倒的な悪口を前に、彼女の心はボロボロになっていた。 「大学に行こうとする当たり前の目標、その中の夢さえも誰かに怪しまれる対象となった」彼女は手記にこう綴った。

「すべての人はマイノリティの側面とマジョリティの側面を多層的に積み重ね、自らのアイデンティティを確立していく。自らを常に強者と考える人は、自らが弱者でありうるということを受け入れられない。反対に、自らを常に弱者と考える人は、自らがある面において強者となりうることを忘れ、他の弱者を無視するものだ。このような考えではヘイトが再生産されるばかりだ」  

同時期、韓国では性別適合手術を受けた後に除隊処分とされたピョン・ヒス下士が必死に声をあげていた。淑明女子大への入学を諦めた彼女にピョンは手紙を送った。

 「 私たち皆、お互い頑張りましょう。死なないようにしましょう。必ず生き残ってこの社会が変わるのを一緒に見たいです 」 

しかし、その一年後にピョンは遺体となって発見された。  

このような韓国での悲劇は、日本でも起きかねない。(トランスジェンダーと防犯について関心のある方は、 仲岡しゅん弁護士の寄稿を参照ください )。

立法の過程で否定されたトランスフォビア

トランスジェンダーへの誤情報を流して、政争の具にしようと企むも現れている。

今春には自民党内で開かれた勉強会で、党のLGBT政策のアドバイザーを務めるシスジェンダー男性の繁内幸治は「性同性なのか、性認なのか、選挙の争点にすべきだ」と語った。繁内ジェンダーアイデンティティの訳語として自民党提出のLGBT理解増進法案では性同性、野党案では性認が採されていることにふれて「性認とは、今この瞬間に分がだとえば、ということになってしまうものだ」「私がだといえば、湯にれなくてはいけない、それを拒めないのが野党案だ」と説を展開した。

認も、性同性も、ともにジェンダーアイデンティティの訳語であって違いはない。カレーライスとライスカレーが同じなのと緒である。

この事態に対し、GID〔性同性障害〕学会理事の中塚幹也教授は「『性認』も『その時点での称』というような軽いものではありません」と明確に否定した。結局、自民党の特命委員会も繁内動には同調しなかった。

むしろ最終的に与野党で合意した法案では、性同性と性認が同じ意味であることが明され、ジェンダーアイデンティティの訳語としては、当初自民党が採していた性同性ではなく、性認が採されることにもなった。性認のほうが、治体施策などですでに広範囲に使われていたことなどが背景にある。

 法案は努義務を掲げるのみで、実効性については疑問が残るものの、こうして実態にもとづいた議論で政策の意思決定がなされたことに、ひとたび安堵のため息をついた。しかし、フェミニズム運動を持しているわけでもなさそうな保守勢が「性の権利のために」と唐突にいはじめる様には恐怖も覚えた。このような状況を受けれることはできない(追記:この記事を意している最中に、山谷えり議員がトランスジェンダーのトイレ利などに触れて「ばかげている」と発した。性教育に反対し、セックスを推奨するからと中高生への宮頸がんワクチン接種に反対し、夫婦別姓にも反対している彼が「性の安全」を持ち出すことのおかしさに多くのが気がつくことを願う)。

0.5%の命を守るために

最新の自治体調査によれば、トランスジェンダーの割合は人口の0.5%である。圧倒的多数の非当事者はトランスジェンダーを知らず、一緒に週末を過ごした経験ももたない。トランスジェンダーがなにに困り、どう臨機応変にやりくりしているのかを人々は知らない。用を足すたびに警備員を呼ばれることがないよう工夫していることを知らない。すでにうまくやれている多くの場面があることも知らない。知らないのにトランスジェンダーの尊厳を認めて、互いが共存することは困難であると、99.5%の側にいるシスジェンダーの人間が決めつけ排除しようとしている。

シスジェンダー中心的な社会で、当事者たちは苦労しながらなんとかやっているのに、そこでの経験や知恵は無効化されている。  

たとえばトイレ。当事者の実態を知らない人たちは、トランスジェンダーのトイレ利用について「手術していないなら女子トイレを使うべきでない(手術しているならよい)」とか「犯罪者と見分けがつかない」などと述べがちだ。   しかし、性別適合手術そのものは外見に影響しないので、実際には手術を受けて戸籍を女性へと変更したあとにも女子トイレを使えないトランスジェンダーがいる。かと思えば、手術を受けなくても女子トイレを使えるトランス女性もいる。私のように「だれでもトイレ」が落ち着くという当事者もいれば、「だれでもトイレは嫌だ」という当事者もいる。

教室から遠く離れた「だれでもトイレ」を使うよう指定されたトランス女子徒を、同級が「こっち」とを引き、教室前にある女子トイレに連れていったという事例をにすることもある。

間である以上は、迷うこともある。拒絶されることへの不安もある。友達が背中を押してくれることもある。シスジェンダー的に作られた社会においては、このような複雑さこそがトランスジェンダーが社会的存在であることの証でもある。

複雑である経験や、そこにあらわれている知恵を、価値のあるものとして尊重するが増えたならトランスジェンダー差別は和らいでいくのではないか。

ハッシュタグで「トランス差別に反対します」とつぶやくことは意思表として重要だけれど、々が圧倒的にトランスジェンダーに無知であることへの薬にはならない。

5中旬より、私は仲間たちと有志でトランスジェンダーのリアル」という無料冊を1万部作成するためのクラウドファンディングち上げている。この冊は、トランスジェンダーについて知らないたちへの啓発を的として作るものだが、私にとっては別の意味もある。差別の惨状に胸をいためているシスジェンダーたちに、ハッシュタグでつぶやく以外にできることを具体的に提したかったのだ。

トランスジェンダー を排除するのはおかしいのではないか」とか「差別はよくないからなくしたい」と思っているでも、ネット上のない書き込みにどう対抗していいのかわからないとか、そもそもトランスジェンダーについて知らないといったケースは多い。そんなとき分の学びを深めることができて、友達に渡しができる冊があれば、もう少し「複雑なものを複雑なまま」受けめられるが増えるのではないかと思う。冊をまわりに広めるというアクションに、ぜひたくさんのに参加してほしい。

トランスジェンダーが求めているのは、ペニスのある湯にれる社会なんでしょう」という曲解や嘲笑はとてもわかりやすい。そうではない運動を、ハッシュタグの外側で作りたい。