性の多様性の授業で使っている動画とワーク
昨年度、中学生向けの性の多様性のワークショップ案を大阪市の委託で友人たちと製作した。自分で言うのもなんだけど、結構いいクオリティのものができたんじゃないかと思っている。
素材がインターネット上でも無料でダウンロードできるようになっているので、このブログでもまとめておこう。
LGBTの授業じゃなくて性の多様性の授業
この学校・クラスにいるみんなもなるほど一人ひとりちがうところがあるんだな、という気づきが持てるような仕組みになっている。
活用の手引き、スライド、ワークシートも全部ここからダウンロードできる。
大阪市の委託で作成したDVDでは当事者へのインタビューなども盛り込んでいるけれど、そのパートがなくても(大阪市外の人は入手困難かもしれない)授業として全然成立すると思う。
授業ではまず動画を見てもらう。
映像を作ってくれたのは友人の飯塚花笑監督。
親友からカミングアウトされた少年が主人公になっているのは、自分も友達から打ち明けられるかもしれないというリアリティを持ってもらうのにいいかな、と思ってそのように設定してみた。
映像を見た後は、打ち明けた子はなぜ打ち明けようと思ったのか、なぜこれまで言えなかったのかをそれぞれ生徒に考えてもらう。
その後、ことばカードを使ったワークをやってもらう。
日頃みんなが使っていることばがカードになっていて、それをグループごとに「全然問題ない青信号」「注意が必要な黄信号」「誰かが傷つく赤信号」に仕分けしてもらう。「先生そんなんやから彼女できへんねん」とか「昨日テレビでみたオカマ面白かった」とか「あの子なんでいっつも水泳休んでんの?」とか、結構これがグループごとに判断が分かれる。ファシリテーターはみんなの意見が違うのを肯定的に受け止めるスタンスでまず臨み、異なる意見のグループの人に「赤信号にした理由」「青信号にした理由」を質問してみたり、どういう表現やどのようなシチュエーションだったら問題がなくて、どのようなニュアンスだったら問題だと思うか、などの議論が可能。。カードを使ったワークショップは一緒にこの授業案を作った武田緑さんのアイデアで、子どもたちも盛り上がるので良い。
授業が2コマ取れる場合には、その後に性の4要素の説明やLGBTなどの用語解説、カテゴライズは万能ではないこと、性的少数者の権利を守ろうということに限らず一人ひとり違うことを大切にする方法を考えていこう、という話をしている。授業が1コマの場合にはことばカードのワークはなしで、冒頭の動画を使った短めの授業をしている。
市のホームページに上がっていて、無料で使えて便利なので、せっかくなのでもう一度宣伝してみようかなと思って紹介してみました。よかったらぜひ使える部分を活用してみてください。
15歳以下の子どもたちや家族のための交流会、次回は3月
イベントの告知です
15歳以下の子どもたちや家族のためのにじっこ交流会
性別に違和感がある。
同性が好きかもしれない。
じぶんって、うちの子って、ひょっとしてLGBT? 性同一性障害?
そんな15歳以下の子どもたちや家族がのびのび安心して集まれる場所を都内で開催します。
子どもだけ、大人だけの参加も歓迎します。
○日時
2020年3月1日(日)13時から16時
※いつ来ても帰ってもOKです
○場所
千代田区内。問い合わせのあった方に追ってご連絡させていただきます。
○参加費
500円(茶菓子代ほか)
○参加できる人
自分はLGBTかもしれないと思う15歳以下の子どもおよびその家族
※LGBTとは、同性を好きになったり、生まれたときの性別に違和感をもったりする人たちのことです。
◯やること
家族どうしのわかちあい、子どもの交流プログラムなど。臨床心理士の資格を持つ相談員などが関わります。
◯協力
LGBTユースの居場所にじーず、佐々木掌子、ハートをつなごう学校
○申込先
こちらのメールフォームから前日までにお申し込みください。
どうぞよろしくお願いします。
新刊『ひとりひとりの「性」を大切にする社会へ』が出ました!
よかったらレビューを書いてほしいな!
今週ようやく発売となりました!
『ひとりひとりの「性」を大切にする社会へ』(新日本出版社、税込み1650円)
発行元の新日本出版社さんのページに、読者の感想コーナーがあって
「LGBT当事者の本、と聞いて、実は尻込みしていた自分がいた。さぞかし今の社会への恨みつらみが書かれているのでは…と思っていたからだ。ところが全編を通して優しく、くすっと笑わせる記述に溢れていて、読むうちに懸念はするすると溶けていた」
(40代、主婦)
と、いかにも読者の感想コーナーというかたちで照れ臭いのですが(ちなみに恨みつらみ要素も多少は練りこまれております)、読む人によって随分と感想が変わりそうな、いろんな角度から読める仕上がりとなっているので、よかったらぜひAmazonでもSNSでもレビューや感想を書いていただけるとうれしいです。
どんな内容の本なのか?
約3年前にウェブマガジン「Wezzy」ではじめた「トランス男子のフェミな日常」という連載をもとに、それをまとめるつもりで書き始めたのですが、読み返したら「全部書き直したい」という衝動に駆られてしまい、衝動のままに結局ほぼ書き下ろしになりました。
コンテンツは以下の通り。
第1章 時事から読み解くLGBT
「ふーん、そうなんだー。そんなこともあるんだね」で一般の人々には忘却されそうなLGBT関連の時事ネタをしつこく深掘りし、題材はLGBTであっても、広く多様性包摂やジェンダーについて考えさせるような作りにしました。
第2章 トランスジェンダーとフェミニズム
「Wezzy」での連載が始まった当初、トランスジェンダー とフェミニズムについて議論している人は日本ではとても少なく、その後女子大へのトランス女性受け入れをきっかけにSNS上ではトランス排他的な自称フェミニストの書き込みが洪水のように溢れ出したわけですが、SNSを見ていない人でも議論についていけるような内容にしました。
第3章 私たちが生きる多様な社会
多様性を大切にしようと口で言うことは容易だったり、自分や大切な人たちの「生きづらさ」に目を向けることはなんとかできたりしても、実際には自分が好きだったアーティストが性暴力の加害者になってしまったり、思いこみでトンチンカンなことをしてしまったり、無力感に追いやられたり、いろんなドラマは日常生活に起きるもの。多様性についてもう一歩深い議論ができたらいいな、と思いエッセイを追加しました。
フェミニズムについて連載をはじめたきっかけ
上に書いたみたいに、3年前に連載を始めたころはトランスジェンダーとフェミニズムについて発言している人は日本ではとても少なくて(もちろん以前には田中玲さんの『トランスジェンダーフェミニズム』などの著作もあったけれど)、トランス男性の自分がフェミニストであることを公言することにも「フェミニストを名乗るなんて、おめーは女だろ!」なんて言われたらいやだなあ、なんてドキドキする気持ちがあったことを想い出します。
2010年代のLGBTブームが経済主導で進んでいってジェンダーの問題を置いてけぼりにしてしまうんじゃないかという違和感はずっとあったのだけど、電通の高橋まつりさんが過労自殺したことで連日メディアが持ちきりだったときに「LGBTが働きやすい会社」として電通に賞が送られてしまったことが、私を決定的にフェミニストにしたんじゃないかな、と今振り返ると思います。男性じゃない人たちがこんなに生きづらい社会で、性差別に目をつぶって「LGBTへの理解を進めよう」って、そりゃーないだろと。
あの頃は2020年になって、フェミニズムがトランスジェンダーを攻撃するための道具にここまで使われるなんて思っていなかった。
悲しいことも残念なこともあるけれど、差別をなくそうとする人たちが別の人をうっかり差別したりすることは「人類あるある」なので、とりあえず140字の応酬ではないやり方で、ひとりひとりの性が大切にされる社会に向けて、これからやれることを探していきたいなと思っています。
海外だとトランスジェンダー でフェミニズムについて発信している人が結構いるので、日本でもどんどん増えていくと良いな。
動画は最近見つけた素敵な動画です。日本語字幕も選べるので、まだ見ていない人はぜひ。
「きんきトランスミーティング」が立ち上がります
今度登壇するイベントのお知らせ
2020年2月9日(日)午後に関西大学梅田キャンパス8F大ホールにて「トランスジェンダー を語り直す 〜マイクロアグレッションって?〜」というイベントを開催することになりました。
主催はきんきトランスミーティング、略して#きんトラ。
タイトルは、トランスってトランスじゃない人からあれこれ語られてばかりだから、トランスが自分たちのことを語りたいよね、という想いでつけました。
イベントの申し込みはここからできます。
きんトラでは近畿地方で、これから定期的にイベントやカフェ(KinkyCafeってネーミングセンスすごいと思う)を開催していくようです。
関西の人たちはぜひよかったら参加してみてください。
新刊も買えるよ!
ツイッターランドにおける140字による応酬に限界があるなと感じる今日この頃ですが、私の来週発売の新刊『ひとりひとりの「性」を大切にする社会へ』は第二章をまるまるトランスジェンダーとフェミニズムについて割いているので、よかったらこれをベースに議論してもらえると、混沌から多少抜け出せるのではないかと期待しています。会場では新刊も買える予定ですので、よかったらお求めください。ただの宣伝です。
ちなみに、マイクロアグレッションって?
反差別の運動では長らくジェノサイド(大量虐殺)も「あいつらは死ね」みたいなヘイトスピーチも「トランスは不採用」みたいな行動も「女性医師を看護師だと勘違いする」みたいな態度も、すべてまとめて差別と呼んできたわけですが、ちょっとそのアプローチ方法には限界があるよね、という議論が出てきて、差別を分類して考えるアプローチが広まっています。
マイクロアグレッションは、悪意がなく無自覚に行われる、差別なのかどうかもグレーだけれど、やられた人にとってはモヤモヤする事柄のことを言うそうです。友人はプチ土足と呼んでいました。
最近は「ゲイきもい」「トランスは昇進させない」みたいな言動をSOGIハラと命名し法律や条例で規制していこうという動きがあるけれど、マイノリティが日常的に苦しむのは、そういう「わかりやすいもの」ばかりではなく、むしろ「彼女/彼氏いないの?」「忘年会のビンゴの景品が男女別」みたいな、これらは法律でどうこうできることではないし、他の人たちは全然気にならないのに、自分の経験が無価値化されてしんどい。うう、どうしたものか。みたいなものの蓄積だったりして、法的解決の外にあるものをどう乗り越えるかの視点も重要なわけです。あいまいな差別の方が、実はマイノリティの健康を害する要因になるという研究もあるみたい。
この映像もわかりやすい。
トランス差別に対抗する方法が、昨今では「とりあえずトランス女性は女性です」と表明することで止まっている印象があり、それ以上のことはよくわからないと思っている方が多いので、もうちょっと先に行けたら良いのかなと思っています。だれがどう見ても陰湿なザ・トランスいじめに反対するのも大切だけれど、トランスの経験を無価値化せず、生身の価値あるものとするための語り合いもはじめませんか。
というわけで、ご予定合う人はぜひご参加ください。
マイクロアグレッションというキーワードは、今の日本の反差別教育でもとても重要な切り口だと思うので、日本でもどんどん使われていくと良いな。
YouTubeで見つけた性教育アニメチャンネルが良かった
インターネットによる性教育の可能性
とかいう、とんでもなくデカいタイトルで今月末に対談することになっているので、国内外の友人にオンライン上のおすすめ性教育コンテンツを募っている。
その中で教わったAmaze.orgという子ども向けのYouTubeチャンネルが大変に気に入ったので今日は紹介してみたい。
ちなみに英語だけど、わかりやすいアニメなので雰囲気を見るだけでも面白いと思うよ!
性自認や性表現について学ぶ編
「これが私、これが私〜♫」と歌いながら、お友達はみんな一人ひとりちがうよね、と小学校高学年ぐらいの子どもでもよくわかるように作られたコンテンツ。セルフィーをとって「いいね」が毎回700件ぐらいついているのが今っぽくて笑える。アルファアカウントのようだ。
性的指向はみんな違う編
キュートなテイストから雰囲気を変えて、こちらはちょっとドキドキするアニメ。人がだれのどんなところに性的に惹かれるのかは人それぞれ、ということが様々な登場人物によって語られる。鼻くそほじってる清潔感ゼロマンにドキドキしてる人とか、謎の白馬のお姉様(二回登場)とか、楽しみながら「性的マイノリティとそれ以外の普通の人」ではなく、みんなが多様性の一部ということがわかる構造になっている。
コンドームの付け方紹介編
冒頭の「なんで風船にストロベリー味があるのよ!」というセリフから笑わせる。先に挙げた2種類のようにLGBTQないしジェンダー・セクシュアリティに関する情報がオンラインの方が入手しやすいのは日本でも同じなのだが(性性堂堂とかいいよ!)、「いつセックスすべきか」「コンドームの使い方」などを高いエンタメ性を兼ね添えながらアニメで教えているのは本当にすごいと思う。日本でもシオリーヌさんなど発信しているけれど、いろんなやり方で増えていくと良いな。
なお、このコンドームの動画は、日本語字幕がついている。NPO法人ピルコンさんがAmaze.orgの日本語字幕をつけるプロジェクトをクラウドファンディングでやっていたみたいで(ありがとうピルコンさん!)、2月にはその上映会があるようなので、こちらも興味ある人いたらチェックしてみてください。
さいごに:ネット有害論への抵抗
「ネットは危ないから自転車でもこいどけ。本を買え」と呼びかける謎のモンスターに対して「おまえは何を言ってんだ」的にユースが問いかけているのが笑える、安全なインターネットの活用に関する動画。セクスティング(脱いだ写真を送ってしまった)で後悔した経験がある登場人物が、その後両親には言えなかったけれど先生には事情を話し、写真を消してもらうよう働きかけたり、加害者をブロックしたり、という「事後の話」を載せているのが良いなと思った。やったら人生おしまいだぜ、じゃないところも優しい。
そんなわけで、今回はAmaze.orgを絶賛してみた。友人知人からもらった資料は全部はまだ見られていないので、面白そうなものがあったら追加でご紹介します。
講演でペットボトルをもらうのをやめた話
昨秋ぐらいから市民講座や授業に呼ばれた際にペットボトルの水をもらうのをやめた。
理由はプラスチックごみが海を汚染したり、温暖化にも加担するから。詳しい現状はこちらのnote.記事によくまとまっている。分別して捨てていれば環境に優しいことをしている、というわけではなかったみたい。
講演をしている90分やそこらで1本を飲みきるわけじゃないし、丁寧なところではお茶とミネラルウォーターの2本をくれたりするから、帰り道のカバンも重くなる。
別にマイボトルで十分じゃないかと思い、依頼先にあらかじめ事情を説明することになってから、割とスムーズにことは運んでいる。講師業をしている人は、年間50本〜100本とか、これで削減できるんじゃないだろうか。
冬場の乾燥した時期は、龍角散のど飴を2〜3個いれてボトルごとガシャガシャふると、喉に優しい飲料も作れるのもいい。ただ、目をつむって飲まないと龍角散成分が揮発してトンデモなく染みるので、それだけはご注意を。
救われた音楽というもの
紅白を見逃した
朝起きたらタイムラインが紅白歌合戦におけるMISIAのレインボーフラッグ演出で埋め尽くされていた。私は憧れの人に志村貴子『放浪息子』の千葉さおりをあげるぐらいには協調性のない人間なので、紅白歌合戦といういかにも国民的イベントで人々がどんな旗を一緒に降っていても、警戒心の方が先に発動してしまうだろう。たぶん。
みんなでなんていや ひとりでうたう
— 千葉さおり (@chibasaori_bot) 2020年1月1日
私 あの先生苦手だわ クラス全員にあだ名をつけようとするのもいや 声がすごく大きいのもいや
— 千葉さおり (@chibasaori_bot) 2019年12月26日
でも、はたと考えた
旗だけに。これがジェネレーション的に馴染みの薄いMISIAではなく、自分が慣れ親しんだアーティストだったらどうだったろう。宇多田ヒカルだったらコロリと感動していたかもしれない、と思うと、なんだよ音楽性かよ。という気もする。
でも宇多田って、ペロッといろんなイシューに言及しちゃうあのオープンさが好き、というのもあるんだよなあ。テレビで曲紹介の時に「これは同性愛について歌ったもので〜」と平気で言及するし、日清カップヌードルのCM曲だった『Kiss&Cry』のもともとの歌詞が「お父さんのリストラとお姉ちゃんのリストカット お母さんはダイエット」だったのを、リストカットはCMに使うのにあかんやろということで「お兄ちゃんのインターネット」に差し替えにされていたというエピソードもすごく好きだ。ライブではこのバージョンで歌っているみたいだが、オリジナルの歌詞の方が断然いいと思う。宇多田はお母さんの精神疾患について以前からインタビューで割と触れてて、そこも好感を持っている。
救われた音楽というもの
LGBTシーンのディーバはこれ!みたいなことがよく言われるけど、ぶっちゃけ狭義のゲイシーンに縁のない千葉さおり的トランスにとってはあんまり親近感がなくて、ぎりぎり同年齢のガガ様は教養としてフォローしているぐらい。みんなが同じ音楽を聴いていたら全然レインボーじゃないので、そういうこともあるわな。
個人的には、90年代のブランキージェットシティやフィッシュマンズ、最近だと神聖かまってちゃんあたりの「死ぬか殺すか」ぐらいの方が音楽としては救ってくれた感がある(ブランキーなんて今のユースにとっては椎名林檎をグレッチでぶつ人ぐらいの認識だろうけど)。
神聖かまってちゃんの『ズッ友』について、の子は「気持ち悪い曲」みたいに内面化されたホモフォビア的言及をしているけど、PVも本当に素晴らしいと思うんだよな。
「あなたはあなたでいて良い」と他者から言われるより、自己嫌悪とかこの世界に対する途方に暮れる感覚をピックアップして、価値あるものとみなしてくれる音楽の方が好きだし、個人的にはそれこそを音楽に求めているんだろうなと思う。
最後に、ニルヴァーナのカート・コバーンの名言でも貼っておこう。
「ファンたちにリクエストがある。もし君らの中に、何らかの形で同性愛や肌の色が違う人、あるいは女性を嫌っている奴がいたら、これだけお願いしたいんだ。俺たちに関わるな!ライブにも来るな、レコードも買うな」
差別の問題をかれらは愛には回収しない。きっと、いつの時代にもたくさんの人が愛については言及している。