バラバラに、ともに。遠藤まめたのブログ

LGBTの子ども・若者支援に取り組む30代トランスの雑記帳です

ヘイトに傾いた人には恥をかかせないほうがよいのかもしれない

最近読んだこちらの記事が面白かった。

www.huffpost.com

10代の子どもがネットで過激思想に触れているぽかったときにどうするか?というもので、いくつかアドバイスが出てくるが、その中に「Don’t shame them(相手に恥をかかせないこと)」というのが出てくる。

ティーンエイジャーと一緒にその問題に取り組むときは、口調と一般的なアプローチに気をつけましょう。

「奇妙に思えることを見たら、それについて尋ねてください」と、ヒューズは助言します。「非難したり、叱ったり、嘲笑したりするような態度はとらないようにしましょう。そういったアプローチは、特にティーンエイジャーの人たちを萎縮させる傾向があるので、逆に事態を悪化させる可能性があります。」

自分をバカにしてくる人の話に耳を傾けようとする人はいない。

バカだと思われているのだろう、と感じた瞬間に怒りを覚えるし「自分が間違っていないことを証明したい」「恥をかかせた相手に復讐したい」と思うのがおおよそのパターンだろう。これはもちろん10代に限った話ではなくて、大人でも同じだ。

知らない人からのリプライは逆効果?

出典を忘れてしまったが(知っている人いたらコメントください)、SNSで知らない人から自分の意見を否定されると、かえって人はムキになり、自分が間違っていないことを証明してくれるWebページを読む時間がますます長くなるという調査がある。

自分の知っている人から言われるならまだしも、知らない人から強い口調で何かをいわれて改心する人は少ない。これを読んでいる人の中には「わたしはちがう。自分は他人のアドバイスを受け入れる謙虚な人間だ」と思っている人もいるかもしれないが、みんながあなたのように謙虚なわけでもない。

つまるところ、人は気分屋だ。何が正しいかではなく、だれにどのように言われるかで意見を変えてしまう。私を含めたリベラルの人間は、正しいことを言えば相手に伝わると考える傾向にあるが、よくよく自分のことをふりかえれば、そうありたいと願っている以上に気分屋なのがわかるだろう。大切なのは、自分と意見のちがう友達を作ることだ。友達に言われたことなら耳を傾ける。

はたから見ている人にはわからない

SNSでは問題ある発言は拡散され、大いに話題になるが、優良コンテンツはそこまで話題にならないという非対称性がある。この非対称性がもたらす結果について、反差別に関わる人は意識しておいた方が良いように感じる。

問題ある発言の一部は、誰からどう見てもひどいものだが、背景が入り組んでいて一見何が問題なのかわかりくいことも多い。いわゆる犬笛にあたる表現は、差別を煽るのに役立つが、わからない人には全く悪質さが伝わらない。

炎上に加わるネット民はユーザーの0.5%らしい。多くの場合、はたから見てる人にはなにがおきているのか謎である。たとえば、トランスジェンダーに関することであれば「なにがなんだかよくわからない」人がマジョリティだと思っておいたほうがよさそうだ(トランスジェンダーの人口は1%にみたず、昨今槍玉にあがることの多いトランス女性にいたっては0.03%とかそれぐらいだ)。

つまり、よそから見ている人にとっては、そもそもの元投稿が叩かれている理由もなんかよくわからない。みていてモヤモヤする。モヤモヤついでに、うっかりなにかをツイートすれば、トランスヘイターからもトランス擁護派からもたくさんのコメントがついて、理解を深めるどころではなくなる。このような人が、たしかにだれかを踏んでいる場合もある。でも、その人は他の人に比べてとりたてて「悪人」ではなく、単に学ぶ機会のなかった人である。

私はトランスジェンダーの当事者で、差別をなくしたいと思って活動をしている立場の人間だが、このような単に学ぶ機会がなかった人が安全に学べる場をどうやって作ればいいのかを考えるのが、自分の仕事だと思っている。そのような人が中立だとか、非が無いと言っているのではなく、私たちは普通に生きていれば鈍感なマジョリティ仕草でだれかを踏むということだ。あなたに多少の責任はあるが、すべてあなたのせいというわけではない、という前提は重要であるように感じる。

トロールの相手ばかりしないこと

昨年からtrans101.jpというトランスジェンダーについての情報サイトを運営している。このサイトはトランスジェンダーについてのFAQ(よくある質問)や、SNS上に流布しているたくさんのトランスを貶めるためのデマを修正するファクトチェック機能をそなえたものだ。トランス差別を一時期していたがそのあと辞めた人のインタビューもある。

trans101.jp

trans101.jp

よくある質問を作ったのは、当事者にいやがらせのために「素朴な質問」のふりをして同じ質問を永遠に繰り返す輩がネット上に多いからで、そのような輩に当事者の貴重な人生の毎日2時間を費やして欲しくなかったから、というのが理由のひとつ。でも、それだけではなくて、恥をかかされずに安全に学ぶ場所がインターネット上にないと感じたことが大きい。

最近では「自分でも勉強中だけど何かしたい」というアライの人が、このFAQをフォロワーに広めたり、実生活でも配布して活用してくれているようだ。そうすると、本当に「素朴な質問」を持っていた人にとっても素直に情報が入っていく。私たちはクソリプしてくるトロールの悪意に気を取られすぎて、それ以外の人たちとのコミュニケーションに気が回らなくなってしまいがちだ。

しかし、トロールの相手をしていてもかれらが改心することはないのだから、大切なのは残りの99%の人たちにどう情報を正しく伝えていくのか、だ。

あいまいな人を包摂すること

冒頭で「大切なのは、自分と意見のちがう友達を作ることだ。友達に言われたことなら耳を傾ける」と書いた。この数年、ヘイトに傾きかけた人が一線を越えようとするのを踏みとどまる瞬間をいくつか見てきた。

いずれの場合にも、「よく詳しくないけど、その人たちの言っていることを肯定するのはやっぱりちょっとまずいんじゃない?」と知り合いから説得されていた。

説得をしている人は、私からみれば、とりたててトランスフレンドリーという感じもない人だった。たぶんトランスのことを10分間話してくださいとリクエストしたら、ポロポロとまちがったことを口にしちゃうぐらいの感じ。

でも「ヘイトに傾きかけた○○さんの友人」というだけで、その人は誰にも代えることのできない存在だったのだと思う。

説得された人がどこまで納得していたのかは怪しいりめちゃくちゃ改心したわけではない。ただ、少なくともヤバさ強度★★★★★★★みたいな言動を人前でやることについては撤回してくれた。本人の考え方が根本的な変わったわけではないが、私はそのことを評価したいと思う。

人は学ぶのに時間がかかる。だから、あいまいな人を追い立ててはいけないし、判断保留である人を急き立てるのもメリットはあまりないように思う。ヘイトに傾きかけている人の内面を変えるのは難しいが、少なくとも、心の中で思っていることを学生の前で口に出すのはやめさせるといった行動変容を促すことはできる。いっときにできるのはそれぐらいである。

だれが敵か味方か、ということをあまり突き詰めない方がよい。あいまいな人とつながる方法を考えていくのも、反差別の運動じゃないかと思っている。 

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